大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)85号 判決 1983年5月25日
原告 破産者日本熱学工業株式会社 破産管財人 植垣幸雄
(第六三号事件)被告 茨木税務署長
(第八四号事件)被告 立川税務署長 板橋税務署長
(第八五号事件)被告 春日部税務署長
(第九一号事件)被告 厚木税務署長
訴訟代理人 森下康弘 井上勝比佐 外七名
主文
一 原告の被告茨木税務署長、同立川税務署長、同板橋税務署長及び同厚木税務署長に対する請求を棄却する。
二 被告春日部税務署長が昭和五〇年五月二八日付でした破産者日本熱学工業株式会社の昭和四八年一〇月一日分物品税(品名ルームクーラー)賦課決定のうち、税額二八一一万七五〇〇円を超える部分を取消す。
三 原告の被告春日部税務署長に対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告と被告春日部税務署長との間においては、同被告に生じた費用の一〇分の九を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と同被告を除くその余の被告との間においては全部原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
(第六三号事件)
1 被告茨木税務署長が昭和五〇年五月二八日付でなした破産者日本熱学工業株式会社(以下、日本熱学という)の昭和四八年一〇月一日分物品税(品名ルームクーラー)賦課決定を取消す
2 訴訟費用は同被告の負担とする。
(第八四号事件)
1 被告立川税務署長及び同板橋税務署長が昭和五〇年五月二八日付でなした日本熱学の昭和四八年一〇月一日分物品税(品名ルームクーラー)賦課決定を取消す。
2 訴訟費用は同被告らの負担とする。
(第八五号事件)
1 被告春日部税務署長が昭和五〇年五月二八日付でなした日本熱学の昭和四八年一〇月一日分物品税(品名ルームクーラー)賦課決定を取消す。
2 訴訟費用は同被告の負担とする。
(第九一号事件)
1 被告厚木税務署長が昭和五〇年五月二八日付でなした日本熱学の昭和四八年一〇月一日分物品税(品名ルームクーラー)賦課決定を取消す。
2 訴訟費用は同被告の負担とする。
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 日本熱学はルームクーラー等の空調機器の販売を業とする株式会社であるが、昭和四九年五月ころ手形不渡りにより倒産し、昭和五〇年三月一四日破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。
2 被告らは昭和五〇年五月二八日付で原告に対し、日本熱学の昭和四八年一〇月一日分物品税として、税額で被告茨木税務署長分一億一二三三万七八〇〇円、被告立川税務署長分七四四四万二八〇〇円、被告板橋税務署長分二〇六六万二五〇〇円、被告春日部税務署長分二九七七万〇五〇〇円、被告厚木税務署長分八七九三万九六〇〇円の各賦課決定(以下、本件各賦課決定という)をした。
本件各賦課決定の理由は、日本熱学が昭和四八年一〇月一日に課税物品であるセパレート型ルームクーラーを別表(一)記載のとおり貯蔵(以下、このクーラーを本件クーラーという)して所持していたというものである。
3 しかし、別表(一)記載の各貯蔵場所は、いずれも訴外エアロマスター株式会社(以下、エアロマスターという)の寄託契約にかかる営業倉庫であり、本件クーラーはエアロマスターが寄託中のもので日本熱学が所持するものとはいえないだけでなく、本件クーラー中には第三者に売却され、その所有に帰したものも含まれており、被告らのなした本件各賦課決定は違法である。
4 原告は、法定の期間内に被告らに対し異議申立をしたところ、被告らは昭和五〇年一〇月九日それぞれ異議申立を棄却する決定をしたので、原告はそのすべてについて同月二二日国税不服審判所長に審査請求したが、当分裁決のなされる見込みがない。
5 よつて、原告は被告らに対し、本件各賦課決定の取消しを求める。
二 請求の原因に対する被告らの認否
1 請求の原因1、2は認める
2 同3は争う。
3 同4のうち、原告が被告らに対し異議申立をなし、被告らが昭和五〇年一〇月九日異議申立を棄却する決定をしたこと、原告が同月二二日国税不服審判所長に審査請求したことは認める。
三 被告らの主張
被告らは、物品税法附則(昭和四八年法律第二二号、以下単に附則という)一一条一項の規定により、日本熱学が昭和四八年一〇月一日現在別表(一)記載の各営業倉庫において販売の目的で貯蔵し所持していた物品税手持品課税の課税対象物品である本件クーラー合計三万九三四一個について、物品税法所定の課税処分として本件各賦課決定をしたものであり、本件各賦課決定に原告主張の違法はない。その根拠は以下のとおりである。
1 所持数量について
(一) 営業倉庫別数量(昭和四八年一〇月一日当時)
(1) 京浜倉庫株式会社大阪物流主管部高槻物流センター分
大阪府高槻市柱本五丁目一一二番地京浜倉庫株式会社大阪物流主管部高槻物流センター(以下、京浜高槻という)が保管していた本件クーラーは、
(エアロマスター寄託名義分)
SC二三〇〇L 室内ユニット 七五三一個
同 室外ユニット 七五三〇個
である。
後記(2)の理由により京浜高槻の保管数量は右の室内ユニット・室外ユニットをあわせて
SC二三〇〇L 七五三一個
とした。
(2) 藤阪倉庫運送株式会社高槻営業所分
京浜高槻がエアロマスター名義で寄託を受けたクーラーのうち、次のクーラーについては、京浜高槻が大阪府高槻市三島江一丁目五番三二号藤阪倉庫運送株式会社高槻営業所(以下、藤阪高槻という)に再寄託した。これにより、藤阪高槻が保管していた本件クーラーは、
(エアロマスター寄託名義分)
SC二三〇〇L 室内ユニット 六〇六一個
同 室外ユニット 六〇六二個
である。
本件クーラーは室内ユニット一個と室外ユニット一個とを組み合わせて一個の製品となるところ、右のとおり、藤阪高槻保管分は京浜高槻が再寄託したものであるから、課税の計算上、京浜高槻分を七五三一個、藤阪高槻分を六〇六一個とする。
したがつて、藤阪高槻分は、
SC二三〇〇L 六〇六一個
となる。
(3) 辰巳倉庫株式会社京浜支店立川倉庫分
東京都立川市富士見町一丁目一三番地辰巳倉庫株式会社京浜支店立川倉庫(以下、辰巳立川という)が保管していた本件クーラーは、
(エアロマスター寄託名義分)
SC二三〇〇L 九〇〇〇個
(日本熱学寄託名義分)
SW二三〇〇CL 七個
である。
(4) 辰巳倉庫株式会社京浜支店板橋営業所分
東京都板橋区高島平六丁目一番七号辰巳斎庫株式会社京浜支店板橋営業所(以下、辰巳板橋という)が保管していた本件クーラーは、
(エアロマスター寄託名義分)
SC二三〇〇L 二五〇〇個
である。
(5) 辰巳倉庫株式会社京浜支店岩槻営業所分
埼玉県岩槻市大字加倉字坂下一三五番地の一辰巳倉庫株式会社京浜支店岩槻営業所(以下、辰巳岩槻という)が保管していた本件クーラーは、
(日本熱学寄託名義分)
SW二三〇〇CK 六三個
SW二三〇〇CL 四五個
(エアロマスター寄託名義分)
SC一八〇〇L 三五四個
SC二三〇〇L 二九四〇個
(訴外宝来エアロセル株式会社(以下、宝来エアロセルという)名義分)
SC二三〇〇L 二〇〇個
である。
(6) 湘南倉庫運送株式会社厚木営業所分
神奈川県厚木市下津古久五〇番地湘南倉庫運送株式会社厚木営業所(以下、湘南厚木という)が保管していた本件クーラーは、
(エアロマスター寄託名義分)
SC二三〇〇L 一万〇六四〇個
である。
(二) 寄託名義について
(1) 附則一一条一項にいう「所持」とは、抽象的な所有権の帰属とは関係がなく、手持品課税の対象物品が社会通念上ある者の支配・管理に属すると認められるような事実上の状態をいうものと解する(名古屋地裁昭和五六年四月二七日判決参照)のが法意にかなつた解釈であるというべきところ、本件クーラーの寄託者名義には日本熱学と異なるもの(エアロマスター寄託名義分・宝来エアロセル名義分)が含まれているが、本件クーラーに対する現実の支配状況を具体的にみると、その現実の支配者が日本熱学であつたことは明らかであり、したがつて、その所持者は日本熱学であつたといわなければならない。
(2) すなわち、
(ア) 寄託者名義エアロマスター分について
エアロマスターは、日本熱学の子会社であり、日本熱学が販売するルームクーラー等の製造部門であつたところ、本件クーラーは、昭和四八年一〇月一日現在において、製造者であるエアロマスターと販売業者である日本熱学との間で既に売買契約が成立しており、右売買契約に基づき各営業倉庫に入庫・保管されていたもので、エアロマスターは、本件クーラーを工場から移出した時点で日本熱学にあて納品書を発行し、本件クーラーが各営業倉庫へ納入された時点でこれを日本熱学に売渡したものとして記帳しており、他方、日本熱学は、本件クーラーが納入された各営業倉庫から郵送される物品受領書に基づき仕入れの会計処理を行なつていた。そして、本件クーラーを各営業倉庫から出荷するに当つては、日本熱学の出荷担当者の指示がなければ出荷することができず、エアロマスターが自らの判断で出荷することはできない状況にあつた。
このように、寄託名義がエアロマスターであつても、本件クーラーを現実に支配していたのは日本熱学であり、その所持者は日本熱学であるといわなければならない。
日本熱学がエアロマスター名義で各営業倉庫に寄託していたのは、商品管理をより効率的に行なうための方使にすぎない。
(イ) 宝来エアロセル名義分について
辰巳岩槻が宝来エアロセル名義で保管していた本件クーラーについては、宝来エアロセルから同倉庫に対し、本件クーラーの受渡業務については、一切日本熱学東京支店に委任し、日本熱学の出荷指図書により宝来エアロセル名義の寄託貨物を引渡すことを了承する旨の念書が提出されており、現にその出荷指図はすべて日本熱学からなされる関係にあつたうえ、本件クーラーの保管料・荷役料の請求も日本熱学に対し行なわれており、その実際の所持者は日本熱学である。
(三)1 売買契約済みで未納人分について
日本熱学がリース会社等と売買契約を締結したもので、未納入のまま各営業倉庫で保管されていた本件クーラーの数量は、一万四九一一個である。
しかし、これらのクーラーは、その現物について未契約の本件クーラーと区分・特定されるまでには至つておらず、したがつて、各営業倉庫毎の数量を確認することができず、しかも、日本熱学担当者の出荷指図があつて始めて各営業倉庫から出荷することができ、リース会社等が自らの意思によつて出荷することはできない状況にあつた。
このように、売買契約済みで未納入分の本件クーラーについても、現実にこれを支配していたのは日本熱学であり、日本熱学がその所持者である。
なお、本件クーラーのうち、右の一万四九一一個を除いた残りの二万四四三〇個について、日本熱学の幹部らが共謀のうえ、これを他に販売したかの如く取引を偽装した事実があり、物品税法違反被告事件として起訴されている。
2 課税標準額の算定について
本件クーラー一個当りの課税標準額を物品税法その他の関係法規に基づいて算定すると、八万二六五〇円となる。
3 物品税額
そうすると、日本熱学に課されるべき物品税額は、別表(一)記載の計算に従い、同表の税額欄記載のとおりとなるから、被告らのした本件各賦課決定に違法はない。
四 被告らの主張に対する原告の認否
1 被告らの主張冒頭の主張は争う。
2 同1の(一)は認め、(二)、(三)は争う。
3 同2は認める。
4 同3は争う。
五 原告の反論
1 寄託名義について
(一) 寄託者名義エアロマスター分
附則一一条一項にいう「所持」とは、「所有」と異なり、現実の占有またはこれに類する客観的事実関係を意味する。被告らの援助する前記名古屋地裁判決は、その引用部分にひき続き、手持品課税物品を倉庫業者等に保管委託させている場合には、その保管委託者を販売のために所持する者と目すべきものであると述べられており、これを本件についてみると、保管委託者はエアロマスターであり、その届出印鑑による出荷指図がない限り各営業倉庫が出荷に応じることがない以上、エアロマスターの本件クーラーに対する支配は物権的・直接的ということができ、寄託者名義エアロマスター分の本件クーラーは、エアロマスターが販売のため所持していたものというべきである。
エアロマスターが本件クーラーを各営業倉庫に寄託したのは、エアロマスターと日本熱学の売買契約に基づくものとしてではない。すなわち、日本熱学が仕入れの会計処理を行なうのは、エアロマスターから届けられた請求書に基づいて代金決済(相殺または振替)がなされた時点(したがつて、エアロマスター側の売上計上と日本熱学の仕入計上との間には時間的なずれがある)である。また、各営業倉庫から日本熱学に対し物品受領書が送付されていたという事実はない。さらに、日本熱学出荷担当者の指図がなければ出荷することができなかつたとする点も事実に反するが、エアロマスターとしては日本熱学の担当者からの連絡がなければ、配達先である各地のエアロセル株式会社(以下単にエアロセルという)に何台販売され、何台出荷の必要があるのかを知りえないから、事実上の問題として日本熱学の担当者の連絡に基づいて出荷依頼をしていた。しかも、日本熱学の担当者は、訴外日本空気販売株式会社(以下、日空販という)もしくは各エアロセルからの送品依頼をそのまま機械的にエアロマスターに取り次ぎ、発送させているにすぎない。
エアロマスターと日本熱学間の本件クーラーの売買契約は、各エアロセルを納品場所とする契約であり、エアロマスターは仕向先である各エアロセルにこれを引渡す義務を負つている。したがつて、日本熱学としては、本来ならば商社的な立場で、各エアロセルから送品要求のある都度買付け、エアロマスターから各エアロセルへ納品させれば足りるのであるが、生産の増大に伴い、日本熱学のエアロマスターに対する貸付金、仮払金、立替金等が膨大な数字となつたため、これを解消する必要上、実需要を度外視して日本熱学が本件クーラーを買取り、貸付金、仮払金、立替金等と相殺することになつたものである。本件クーラーの保管は実質的にエアロマスターの責任と負担においてなされるべきものと考えられており、どの営業倉庫に入庫するかについてもエアロマスター(富士小山工場)が決めていた。
このように、日本熱学の本件クーラーに対する支配の関係は、買主としての立場からエアロマスターに対し出荷、納品等を請求しうる債権的・間接的なものにすぎず、本件クーラーを販売のため所持する者には該当しない。
(二) 宝来エアロセル名義分
被告ら主張のような念書が仮に提出されていたとしても、右の念書は、宝来エアロセルが仙台市にあるため、辰巳倉庫としては連絡が不十分となることを予想し、日本熱学に責任を負わせるために同倉庫側の都合で差入れされたものと考えられ、したがつて寄託物を日本熱学で任意に処分しうるという趣旨のものではないから、かかる念書の存在のみをもつて日本熱学の所持にかかるものということはできない。
しかも、宝来エアロセル名義の本件クーラー二〇〇個は、昭和四九年一月一九日から同年二月二〇日にかけ、四回に分けてすべて宝来エアロセルに現に引渡されている。
2 売買契約済みで未納入分について
本件クーラーを各エアロセルに販売するについてリース会社を介在させたのは、本件クーラーを担保として売買代金を捻出するためであり、したがつて、本件クーラーは本来ならば各エアロセルに納入されるべきところ、エアロセル側の都合で各営業倉庫に保管されていたもので、エアロセル毎の数量は別表(二)記載のとおりである。
被告らは売買契約済みの本件クーラーが他のものと区分・特定されるに至つていないと主張するが、リース契約締結時には各エアロセル名は確定しており、エアロマスターとしては、どの営業倉庫に寄託するのが好都合かを考えて区分のうえ寄託していたものと考えられ、したがつて、どのエアロセルに引渡すべきものがどの営業倉庫に寄託されるべきか決まつていたものである。各営業倉庫において区分・特定がなされなかつたのは、所有者であるリース会社からそのような要求がなく、あえて区分・特定することによつてリース会社が荷役料等を営業倉庫から請求されることを避けるためのものであり、区分・特定されないことによつて日本熱学が占有の利益を主張しうべき立場にはなく、そのほとんどは昭和四八年一二月末までに同表記載のとおり現に各エアロセルに引渡し又は名義変更されている。
さらに、リース会社等が自らの意思によつて出荷できないというのは、リース会社が寄託者でない限り直接出荷を要求しても営業倉庫がこれに応じないことは寄託の性質上当然であり、日本熱学が営業倉庫に直接出荷要求しえないのと同じ事情である。また、日本熱学の担当者の出荷指図があつて始めて営業倉庫からの出荷ができる状況にあつたとする被告らの主張が正当でないことは既に述べたとおりである。
したがつて、売買契約済みで未納分の本件クーラーは、日本熱学が現実に支配するものではなく、その所持者に該当しない。
なお、リース物件たる本件クーラーについては、すべてリース会社がその固定資産として各エアロセル所在地において固定資産税を納付している。
3 偽装取引とされる分について
偽装取引がなされたと被告らが主張する二万四四三〇台の本件クーラーは、いわゆる直轄エアロセル各社に無理に押しつけたもの、つまり押込み販売をしたものであり、真実の販売である。エアロセル各社からは代金の手形を受領しており、その後東京エアロセル等に一部は引渡されている事実からしても、擬装の売上げであつたとは考えられない。また、日本熱学の経理処理のうえで不正があつたとしても、昭和四八年九月下旬に押込み販売がなされた事実に影響はない。
第三証拠<省略>
理由
一 課税処分の存在等
請求の原因1、2項の事実及び本件クーラーが昭和四八年一〇月一日当時被告らの主張1(一)のとおり営業倉庫別にエアロマスター、日本熱学並びに宝来エアロセル名義で寄託されていたことは当事者間に争いがなく、本件クーラーが附則四条三号、五条に該当する第二種の課税物品であることは弁論の全趣旨により明らかであり、附則一一条一項によれば、右課税物品を昭和四八年一〇月一日にその製造に係る製造場及び保税地域以外の場所で販売のため所持する当該物品の製造者又は販売業者がある場合において、クーラーについてはその数量が一〇〇個以上の場合、その者が当該物品を製造した者以外のものであるときはこれを当該物品を製造した者とみなし、その日に当該物品をその製造に係る製造場から移出したものとみなして物品税を課する旨定めている。
二 本件クーラーの所持人
1 本件クーラーの流通過程
原本の存在については争いがなく、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第八、第九号証の各一ないし三、第一〇号証の一ないし五、第一八、第一九号証の各一、原本の存在並びに成立に争いがない乙第一二号証、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし八、同号証の九の一ないし三、同号証の一〇の一ないし四、同号証の一一の一ないし七、第一六号証の一、同号証の五の一、二、同号証の六ないし八、同号証の一〇、証人鈴木正雄、同城倉晃(一部)及び同梶行雄の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
日本熱学は、昭和四七年一〇月ころフランチャイジー(地区代行店)制レンタルクーラー・システム販売により事業を拡大することを計画し、エアロマスターが製造したコイン・クーラーを全量日本熱学が仕入れ、これを各地区の代行店である各エアロセルに売渡し、各エアロセルが顧客にコイン・クーラーをレンタルする方法をとることとし、各地区代行店からの受注の取りまとめ及び販売の指導を目的とする日空販を設立してこれに当らせるシステムとした。
これに伴い日本熱学及び各エアロセルが多額の資金を必要としたため、リース会社を介在させることにより資金を得ようとし、日本熱学からリース会社にクーラーの一部を売渡し、リース会社から各エアロセルが賃借し、これを更に顧客にレンタルする方法をも加えることとした(乙第一六号証の八参照)。
したがつて、日本熱学、エアロマスター及び日空販は法人格を異にするものの、エアロマスターは日本熱学の生産部門、日空販は販売部門ともいうべき実体を有していた。
本件クーラーはいずれもエアロマスター富士小山工場で製造され、昭和四八年九月末日までに日本熱学へ売渡したとして営業倉庫へ入庫されたもので、その全量を日本熱学において仕入を計上し、辰巳岩槻に寄託したエアロマスター名義分のSC二三〇〇L二〇〇個について宝来エアロセル売渡し分としたほか(後記2参照)、リース会社との間で売買契約を締結したか(後記4(二)参照)、各地エアロセルに売渡すべく予定されていたものである。
原本の存在並びに成立に争いがない甲第五号証、第六号証の二、第七号証及び証人城倉晃の証言によれば、日本熱学は昭和四八年八月ころ本件クーラーのうち別表(二)の一万四九一一個(後記4(二)参照)を差引いた残りの二万四四三〇個(したがつて、前記宝来エアロセルに売渡した分としての二〇〇個を含む)を直系の東京エアロセル、不二エアロセル、阪南エアロセル及び山陽エアロセルへ売却し、同年一〇月一日時点で日本熱学所有分は存在しない旨述べられているが、他方前掲乙八号証の一、原本の存在については争いがなく、鈴木正雄作成部分は証人鈴木正雄の証言により成立を認め、その余の部分については成立に争いがない乙第九号証の四によれば、右直系エアロセルへ売却したとする分について、物品税の課税を免れるため生産会社(エアロマスター)及び第一次問屋(日本熱学)の手持在庫を無くす方法としてとりあえず擬装の契約書を作成したものである旨述べられており、更に前掲乙第九号証の一、証人鈴木正雄の証言により成立を認めうる同号証の八の二によれば、右売却の処置は同年一〇月四日ころ関係者の打合せによりなされたものと認められるから、直系エアロセルに対する売却をいう前記証拠はいずれもこれを信用することができないし、原本の存在並びに成立に争いがない乙第九号証の五ないし七、乙第一六号証の九の一ないし四はいずれも内容が虚偽のものであつて採用することができない。
また、証人城倉晃は、エアロマスターからのクーラーの仕入に関し、日本熱学の経理がエアロマスターに対する貸付金あるいは仮払金とクーラー代金を相殺して決済した時点で始めて日本熱学の仕入となり、エアロマスターが営業倉庫へ入庫した時点ではない旨述べるが、これは同証人が日本熱学の経理担当者であつたことから経理部門の観点から述べられているのに過ぎず、同証人自身本件クーラー全量を日本熱学が昭和四八年一〇月一日までに他へ売却処分したとも述べるのであるから、右証言は日本熱学が同年九月末日までに本件クーラーを全量仕入れたとする右認定の妨げとなるものではない。
そして、他に右認定を妨げるに足る証拠はない。
2 営業倉庫寄託の関係
原本の存在並びに成立に争いがない乙第一、第二号証の各一、二、第四号証の二、三、第六号証の五ないし七、同号証の一一ないし一八、第七号証の一、原本の存在については争いがなく、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第三号証の一、二、第四号証の一、第五号証の一、二、第六号証の一ないし四、同号証の八ないし一〇、第七号証の二ないし五、前掲乙第八、第九号証の各一、第一〇号証の一ないし五、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし八、同号証の九の一ないし三、同号証の一〇の一ないし四、同号証の一一の一ないし七、証人鈴木正雄、同城倉晃及び同梶行雄の各証言を総合すると、次の事実が認められ、その認定を妨げるに足る証拠はない。
前記コインクーラーのフランチャイジー・システム販売に関し、エアロマスターで製造したクーラーは当初エアロマスターの製品庫で保管し、日本熱学の出荷指示に従いエアロマスターから各地エアロセル宛送付されていたが、その後エアロマスターの生産能力が上るにつれ製品庫が手ぜまになり、エアロマスターから日本熱学に対し早期に製品の引取方を求めるようになり、また、エアロマスターが大量の資金を必要とし、日本熱学からエアロマスターに対する貸付金、仮払金等が膨大な金額になり、連結決算の必要がわずらわしく、むしろ、エアロマスターの生産即日本熱学の仕入とした方が好都合であるという事情もあつて、日本熱学が契約した営業倉庫(関東地区は辰巳倉庫、関西地区は京浜倉庫)へ日本熱学が寄託名義人となりエアロマスターから出荷されたクーラーを寄託するようになつた。
昭和四八年三月ころ、エアロマスターの生産量が更に増大し、営業倉庫の保管料も嵩むようになつたため、生産即仕入の方式に変更はないが、入庫後三か月間はエアロマスターが倉庫料を負担し、その後は日本熱学が負担することを日本熱学とエアロマスター間で協定のうえ、同年四月からエアロマスターが営業倉庫業者(日本熱学が寄託していた前記二倉庫及び湘南倉庫)と寄託契約を締結し、各エアロセルの地域的分布を考慮して関東と関西の倉庫業者へ適当数量を寄託し、倉庫に入庫の都度日本熱学への売上を計上し、倉庫からの出荷業務は日本熱学からの出荷指示に従いエアロマスターが事務的に行うこととなつた。
本件クーラーのうち、エアロマスター寄託名義分は昭和四八年四月以降右の事情により寄託されたものであり、日本熱学寄託名義分はそれ以前から日本熱学が寄託者となつて寄託していた分である。
宝来エアロセル名義分は、日本熱学が昭和四八年三月以前に宝来エアロセルに対して売渡していた旧タイプのクーラーSW型をSC型と交換することとなり、交換クーラーとして辰巳岩槻にエアロマスター寄託名義で保管中のものをこれに充てることとし、日本熱学はエアロマスターを通じ辰巳岩槻にその旨連絡し、同倉庫において同年四月二一日エアロマスター名義で保管中のSC二三〇〇L型四〇〇個を宝来エアロセル名義に変更し、その後同年六月一九日一〇〇個、同年七月二三日一〇〇個が払出され(いずれも郡山運送によつて搬出されているから、仙台市に本店を置く宝来エアロセルの必要による出荷と推認される)、残りの二〇〇個が該当品である。
なお、保管料の支払は、日本熱学及びエアロマスターが各営業倉庫に対し、それぞれ寄託名義分の支払をしたが、エアロマスターは、後刻その寄託名義分のうち入庫時から三か月を経過した分の合計を、日本熱学に対し一括して請求し、その決済を受けていた。また、エアロマスターが辰巳岩槻に寄託していたもので前記宝来エアロセルへ名義を変更した分については、その名義変更後辰巳倉庫がこれを日本熱学に対し請求するという処理に変更され、日本熱学がその支払をした後、これを宝来エアロセルから取立てていた。
3 営業倉庫からの出庫関係
前掲乙第九、第一四、第一五号証の各一、証人鈴木正雄及び同梶行雄の各証言によれば、営業倉庫に保管中のクーラーのうち、日本熱学寄託名義分は、売渡等により出荷を必要とする都度、日本熱学が倉庫業者に出荷を依頼して出庫されていたが、エアロマスター寄託名義分については、前記のとおりそのクーラーがいずれも日本熱学からリース会社又は各地エアロセルに売渡され、その売渡先に送付することになつていたため、エアロマスターとしてはこれを独自の判断で出荷することができず、日本熱学担当者からの電話による必要数量及び送付先の連絡を受け(日本熱学の担当者は日空販あるいは各地エアロセルからの連絡によりエアロマスターへ連絡する)、これをそのまま各営業倉庫へ電話で出荷を依頼し、後刻出荷依頼書を倉庫業者へ送付する方法によつていた。
4 所持人の判定
(一) 附則一一条にいう販売のために所持する者の判定については、それが物品の流通過程で手持品に課税するための租税技術上の概念であることを考慮に入れると、その対象物品が社会通念上ある者の支配・管理に属すると認められるような事実上の状態にあるか否かにより決すべきであるが、手持課税物品を倉庫業者に保管委託させている場合には、その保管委託物について実質的に処分しうる事実上の支配権を有する者をいうものと解するのが相当であり、倉庫業者に対し形式的に出庫指示をなしうるに過ぎない者はこれに含まれないというべきである。
(二) そして、1ないし3で認定した事実によれば、本件クーラーのうち宝来エアロセルに名義変更した分を除くその余のクーラーは、日本熱学寄託名義分がその所持にかかることはいうまでもなく、エアロマスター寄託名義分についても、それが日本熱学の仕入商品として倉庫別に製品及び数量が特定されているうえ、倉庫業者に対する出荷の指図も、寄託契約の名義人の関係からエアロマスターを通じて行わねばならないという制約はあるものの、日本熱学の判断で意のままになし得るのに対し、エアロマスターとしてはこれを独自の判断でなし得ない関係にあることを考えれば、これまた日本熱学が保管委託物について実質的に処分しうる事実上の支配権を有すると認めるのが相当である。
原告は、本件クーラーのうち別表(二)記載の分(合計一万四九一一個)について、日本熱学が昭和四八年一〇月一日より前に同表のリース会社欄記載の者に売却していた旨主張するが、これがその日より前にそのリース会社に引渡され、あるいは保管倉庫で区分特定されていなかつたことはその主張自体から明らかである(倉庫内での名義変更並びに現実の引渡がなされたのは同表の昭和四八年一〇月一日以降納入状況欄記載を参照)。
したがつて、右リース会社らが各営業倉庫のどの保管品が自己の買受けた商品であるかを特定することはできず、また、営業倉庫への寄託が前認定のとおりエアロマスターの判断により関東と関西の倉庫に分けて適当に寄託されていたものであり、各倉庫の保管品がどのリース会社ないし各地エアロセル宛に特定送付されるかは出庫時点まで判明しないことを考えれば、たとえ日本熱学においてリース会社に販売した事実があつたとしても、それが区分・特定されない以上、日本熱学の所持を離れたということはできない。
(三) 本件クーラーのうち、宝来エアロセル名義分は、前認定のとおり日本熱学が宝来エアロセルに売渡した旧タイプのクーラーの交換分として、辰巳岩槻に保管中のエアロマスター寄託名義のなかから機種数量を特定し、倉庫業者了解のもとに名義変更をしたものであるから、少なくともその時点で同倉庫に保管中の特定機種、数量について、日本熱学、エアロマスター(寄託契約者)、宝来エアロセル及び倉庫業者との間で特定・区分され、宝来エアロセルのその物品に対する支配権が発生したものと認めるのが相当である(なお、前記のとおり直系エアロセルへ売却したとする分には宝来エアロセル名義分二〇〇個を含んだ数量になつているが、右売却自体擬装されたものであることを考えると、そのことから宝来エアロセルへの所有権移転を否定することはできない)。
被告春日部税務署長は、宝来エアロセルが倉庫業者に対し念書を提出し、日本熱学の出荷指図により出荷されることになつていたから、日本熱学の所持と認むべきものである旨主張する。
なるほど、前掲乙第五号証の一、第六号証の一ないし一八によれば、宝来エアロセルが辰巳岩槻に対し、名義変更された貨物の受渡業務については一切日本熱学東京支店に委任し、日本熱学の出荷指図書によつて宝来エアロセル名義の寄託貨物を引渡すことを了承する旨の念書が差入れられたことのあることは認められるが、その差入の時期については本件の全証拠を検討しても昭和四八年一〇月一日の前後のいずれであるかを確定し得ないばかりか、日本熱学東京支店担当者作成に係る出荷依頼書により出庫されたことが明らかな分は昭和四九年一月一九日以降であること(乙第六号証の一二)、証人鈴木正雄の証言によれば、右念書提出の時期は同年一月ころと思う旨述べ、それ以前においても宝来エアロセル名義に変更した分は日本熱学東京支店の担当者が出荷の指図をしていたが、それは宝来エアロセルが正規の寄託契約を締結していない関係上日本熱学において宝来エアロセルのなすべき業務を代行していたに過ぎない旨述べていることに照らせば、乙第五、第六号証(枝番を含む)のみでは被告春日部税務署長の主張を認めるに充分でなく、むしろ宝来エアロセル名義分は同エアロセルが実質的に処分しうる事実上の支配権を有していたものと認めるべきであると考えられる。
(四) そうすると、日本熱学が昭和四八年一〇月一日当時販売の目的で営業倉庫に貯蔵し所持していたクーラーは本件クーラーのうち宝来名義分二〇〇個を差引いた三万九一四一個と認められる。
三 本件クーラーの物品税額
本件クーラーの昭和四八年一〇月一日当時の物品税の課税標準額が一個当り八万二六五〇円であることは当事者間に争いがなく、附則一一条一項によればその時点での税率は一〇パーセントである。
四 本件各賦課決定の適否
以上の次第で、昭和四八年一〇月一日当時別表(一)の貯蔵場所に保管されていた本件クーラー(但し、辰巳岩槻の宝来エアロセル名義分二〇〇個を除く)を日本熱学が所持していたとして、日本熱学の破産管財人である原告に対してなした被告茨木税務署長、同立川税務署長、同板橋税務署長、及び同厚木税務署長の本件各賦課決定はいずれも適法であり、被告春日部税務署長のした賦課決定のうち、辰巳岩槻の宝来エアロセル名義分二〇〇個については納税義務者を誤つた違法が認められ、その限度で取消しを免れないが、同倉庫に保管中の残り三四〇二個については日本熱学が所持するものと認められ、右数量に課税標準額と税率を乗じた税額二八一一万七五〇〇円の限度において適法というべきである。
五 よつて、原告の被告茨木税務署長、同立川税務署長、同板橋税務署長及び同厚木税務署長に対する請求は理由がないから棄却し、被告春日部税務署長に対する請求のうち、宝来エアロセル名義分二〇〇個に関する部分は理由があるから、その限度で同被告のなした賦課決定を取消し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九二条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 志水義文 宮岡章 中川博之)
別表(一)、(二)<省略>